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ゾンビ 2

オバケ度…
60〜100%
特定状況で「出る」  ? 相手無差別に「出る」  ○ 
会話は不可  ○ 独自の論理   ?
異形の姿   ○

死体が町へやってきた。

ゾンビの故郷、ニューオリンズへ行ってきた。

アメリカ合衆国南部、ルイジアナ州にある、ミシシッピ川河口の古い町である。ジャズの発祥地として、フランス植民地時代の面影を色濃く残す町として、また米国でのブードゥー教の本拠地としても知られている。(どこだか分からない人は、地図を見るように。)

さて、この町で、私はゾンビのあまりに自然な存在理由を知った。

この地方は、雨が多い。夏は日本の太平洋側など問題にならないほど、ひどく蒸し暑くなる。なにしろワニが出るほどの気候である。ここへ、大きな川の河口とい う海運に便利な場所を魅力に感じ、ヨーロッパから船に乗って、主にフランス人が移住してきた。17世紀半ばの昔のことである。

なれない気候、厳しい生活に加え、衛生観念がまだ発達していなかった時代のことであるから、疫病が流行し、命を落とす人が絶えなかった。フランス人は、カトリック教徒である。誰かが死ねば、本国でそうしているように、棺おけを作って遺体を納め、地面に穴を掘って埋葬する。

ヨーロッパならば、それで問題の出ようもないのだが、ここは気候が違う。夏の長雨で川が増水し、町は年中水浸しになっていた。町の裏側に作った墓地から、埋め たはずの棺おけが、ぷかぷか浮き出してしまう。棺おけの蓋が歪んで開き、先週死んだ横丁のおじさんの腐乱死体が、泳いで挨拶をしにくる。

たまにそういうことがある、という程度ではない。毎年、洪水の時期になると、必ず腐乱死体がいくつも泳いだのだそうだ。水びたしの町の中を、小舟に乗って、散らかった死体を集めて掃除してまわるのを仕事にしている人がいたくらいだ。


人々は、仕方がないので、棺おけを埋めたあと、土饅頭の上からレンガを積み上げ、重石をした。しかし、こんないいかげんな対策で、問題が完全になくなるわけ もない。今度は、土の中の棺おけに水が入り、死体が浮いて棺おけの蓋に当たり、死体が土の中から「出してくれ」と要求しているとしか思えないコツコツ音が 聞こえたりしたらしい。

ひょえー。なんという、ファンキーな場所。

こんな土地がらでは、墓場から起き上がった死体の化け物を想像するのは、想像力が不要なほど簡単である。ブードゥー教の司祭が死体を操る魔法を知っているか どうか、なんてこととは全然関係なく、死体は墓場から勝手にどんどん起き上がって、人々の生活の中へ侵入してきていたのだ。

アメリカに出るオバケの類は、大抵が宗教の存在を抜きにしては語れない。ゾンビに関しては、ブードゥー教の影響が必ず指摘されている。しかし、どうやら、ことゾンビに関しては、もっとあっけらかんとした存在理由があるのだと認めてしまったほうがよさそうだ。

だって、説明もなにもないではないか。死体は、墓場から出て、町へやってきていたのである。本当に。

ゾンビ大量発生の時代から、丸3世紀以上の時が過ぎた。現在、ニューオリンズ近辺では、治水工事が進んだことと、埋葬方法に工夫がこらされたことにより、死体が墓場から出てくることはない。いやはや、実に、めでたいことである。

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