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ゾンビ 1

オバケ度…
60〜100%
特定状況で「出る」   ? 相手無差別に「出る」   ○
会話は不可  ○ 独自の論理   ?
異形の姿   ○

ゾンビは気の毒だ。

墓場から魔術によって呼び起こされた魂のない死体、それがゾンビである。

そのイメージの馬鹿ばかしさによってか人気があり、ハリウッド映画でたびたび役をもらっている。しかし、なにしろ魂がなくて、しゃべらないことになっている ため、台詞がつかない。役は、一番強い化け物が出る前の前座である。ストーリーにかかわらず、呆然と前進し、だれかれかまわず噛み付くだけだ。既に死んで いるので、なかなか倒せない不気味さはあるが、あんなかたい演技ではいつまでたっても出世できない。出演料も安いだろう。

日本にいる私たちに思い浮かべることができるゾンビの姿は、まずこのハリウッド版のバリエーションの枠の外へ出ない。どうやっても面白味のあるオバケではない。

だってあなた、前進して、噛み付くだけですよ。

ところが、ゾンビの出身地のハイチへ行くと、少々事情が違う。彼らは農奴として文句もいわず農作業を手伝うと言われているのだそうだ。さすが地元。ゾンビが 生活と密着している様子がある。ゾンビには魂がないのだから、確かに一番つらい作業をさせるには好適かもしれない。うまく考えたものだ。



ボス敵が出る前の前座としてだけの存在より、こういうののほうがずっとオバケらしい。私は感心した。オバケにも、ある程度は土着の感じ、そこに生活している 人々の暮らしのにおいがないと、臨場感が不足して、うそくさくなってしまう。オバケはこの世のものではないのに、決してこの世から自由ではないのだ。

ハイチには、元フランス領であり、現在の住人のほとんどがアフリカから連れてこられた48万人の黒人奴隷の子孫であるという歴史がある。山が多くて農地が少 なく、その上年中ハリケーンが通るので、なかなか作物が安定して作れない場所だという地理的条件もある。ふとゾンビの農奴を土地の人々に重ね合わせると、 もしかしたら魂を捨てなければとても耐えられない労働をさせられていた時代があったのかなあと、なんだか胸が痛む。

ハイチでは、いんちきな肉屋が、牛や豚と称してゾンビの肉を売るという話も読んだことがある。なんでもゾンビの肉は即腐るから(そりゃそうだろう)、肉屋に だまされたということがすぐ分かるのだそうだ。これもなんだか悲しい。鮮度の悪い肉をつかまされて、そうか、安かったのはゾンビの肉だったせいか、と泣き 寝入りするこの納得の仕方が、なんとも言えない無力感にあふれているではないか。

どうも全体にゾンビは気の毒だ。この印象は私の偏見ではないと思うのだが、どうだろうか。

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