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ろくろ首

オバケ度…
60〜80% 
特定状況で「出る」  ○ 相手無差別に「出る」   ○
会話は不可  × 独自の論理   ?
異形の姿   ○

美人が怖い

ろくろ首は、夜中に首がぐいーんと伸びることを除けば、昼間の行いは全く普通の人と変わらないという性質の伝統オバケである。多くの場合、楚々とした美人として描かれる。その美人が夜中になると首をのばし、日本の妖怪変化の例に漏れず、型どおりあんどんの油をなめる。

怪しく美しい形態のせいか、人気のあるオバケである。私も大好きだ。首の伸びるオバケには見越し入道という男性形のものもあるが、こちらはなぜか人気があまりない。

落語の「ろくろ首」

何通りもあるろくろ首の話の中でも、五代目柳屋小さん「ろくろ首」は、お気に入りのひとつ。物語を紹介しよう。

毎日のそのそ遊んでばかりいるマツは、そろそろ兄貴のようにお内儀さんをもらいたいと思い、おじさんに相談に行く。おじさんはぼんやりしたお前にぴったりの良い話があると言い、不肖の甥をお屋敷のお嬢さんに紹介することにする。





実はお嬢さんには難がある。夜中になるとするすると首が伸びるのだ。いままで何度か婿養子をとろうとしたが、皆逃げて行ったらしい。マツはよく眠るたちなので夜中に目なんぞ覚めたことがない。問題ないだろうと承知した。

うるさ型のばあやさんの面接もなんとか通過し、目出度く器量よしで財産持ちのお嬢さんと祝いの杯。初夜、昼間うかれすぎた新郎はさすがに環境が変わったせいか眠りが浅く、夜半にふと目を覚ます。すると…

「うわわわわ、伸びた伸びた!」

あらかじめ聞いて承知していたはずなのに、ぼんやりのマツも妖怪と床を共にして平気なほど鈍いわけではなく、逃げ戻ってきてしまう。

もう実家へ帰らせてくれと訴えるマツに、今更どうして戻れるかとおじさんが諭す。

「家ではおまえのお袋が、首を長くして良い知らせを待っているんだぞ」

あらら、それでは家へも帰れない…。

北斎のめずらしいもの見たさ

もうひとつ、杉浦日向子の「百日紅」の中の一話、「離魂病」も紹介しよう。

この話の中でも、ろくろ首は、美人だ。首を伸ばして人を怖がらせておいて「なんぞ悪い夢でも見なんしたか?」というせりふは、やはり美人がしゃあしゃあと言ってこそサマになる。

桔梗屋の小夜衣という花魁の首が抜けるという評判を聞いた葛飾北斎は、珍しい物見たさに吉原へ繰り出す。夏の宵のクチナシが香る中、白くほっそりとした花魁の首ががくがく揺れ、ずるりと抜ける。結界になっているらしく、首は花魁が眠る蚊帳の中からは出られない。ボスッ、ボスッと蚊帳に首が当たるのを連れと二人で眺める北斎。なんとも美しく、不気味な話。

花魁を説得するために北斎がする作り話もすばらしい。あまりすばらしいので、まだ読んだことのない人の楽しみを奪わないようここには書かない。

杉浦日向子は、見てきたとしか思えない絵を描く。その説得力は水木しげると並ぶ。ひょっとすると越えているかもしれない。NHKテレビの「お江戸でござる」などで浮世離れした時代考証家としてゲスト解説者をやっている姿しか知らない人は、ぜひ漫画のほうも見てほしい。ファンとしては、この才能が隠居してしまったのが惜しくて仕方がない。

(言うまでもありませんが、
この文章は、杉浦日向子さんが
なくなる前にかかれたものです。
悲しいです。)

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