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トイレの花子さん

オバケ度…
60%〜80% 
特定状況で「出る」  ○ 相手無差別に「出る」  ○ 
会話は不可  △ 独自の論理    ○ 
異形の姿   × 

おかっぱで赤い服

「トイレの花子さん」は、映画まで作られた超有名キャラクター。現代の学校の怪談の花形スターである。

基本的な話は、こうだ。学校のトイレの、特定のドアを、決まった回数(3回が多い)ノックすると、中から「ハーイ」という可愛らしい女の子の声がする。これは、この個室、または掃除用具入れで殺されたか自殺した女の子の霊である。花子さんの姿は、大概おかっぱ頭で赤い服である。トイレから外に出ようともがいたのか、血塗れた手をしている。

おかっぱで赤い服、というのが、現代の子供オバケの典型らしく、このページの読者が「うちの子がリビングで見たようだ」と報告してくれた座敷わらしにも、おなじ姿かたちのものがいた。

声がするだけで終わりのパターンに加え、そのあと「何して遊ぶ?」ということになって、選んだ遊びによって殺されてしまうパターンや、ノックの回数で占いをしてくれる交霊会みたいなパターンなどもあるようだ。

花子さんの起源には諸説ある。

私の知る限り、最も大仰な説はこうだ。花子さんは、本妻に妬まれ、トイレで殺されたのをうらんでトイレに出る、千三百年ほど前の時代の中国の何媚という女性のオバケであるというのである。どうせ出るなら、トイレじゃなくて、もっといい場所に出たいだろうに、気の毒なことである。

このオバケは、予言能力があるとされ、「紫姑神」「厠姑」「三姑神」という名に変化して、トイレの守り神として信仰を集めたらしい。いまでも、中国の家庭では、何媚の命日である1月15日に行事を行うところがあるそうだ。

日本にも、江戸時代ごろから民間信仰の中に入ってきているというが、私の個人的な体験のなかでは、女性の守り神がトイレにいるという話を聞いた覚えがない。

可愛らしい子供の花子さんと、どろどろした大人の怨念を背負った何媚はずいぶんイメージが違うので、私にはどうも直接の関連があるとは思えない。花子さんほどの知名度はないが、「紫ババア」という、トイレに現れる紫色の服を着た老女のオバケが知られている。こちらを何媚の霊の変形と考えるほうが自然だろう。

しかし、はるばる中国から、千年以上の時を越えて、オバケが移動し、形を変え、定着したのだととしたら、それもまた実に面白いではないか。




オバケはどうやって旅行するのだろう。手ぶらだろうか。荷物を持っているのだろうか。飛行機や船に乗るのだろうか。空を飛べるだろうか。それとも本や人の頭の中のイメージとして、抽象的な形でやってくるんだろうか・・・。

トイレのおばけ、バリエーション

「赤マント青マント」

「赤マント、青マント」は、昭和十年代ごろのオバケ。最近はほとんど出ないので、絶滅したと考えられるが、おもしろいことに、変形版がいくつもある。

基本はこうだ。学校のトイレの個室に入ると「赤マントがほしいか、青マントがいいか」とたずねる声がする。正解は「青」である。間違って「赤」と答えてしまうと、天井からナイフが落ちてきて、そこで殺されてしまう。周囲に飛び散った血しぶきが、赤いマントのように見えるのだそうだ。

「赤い紙、白い紙」

戦後、昭和二十年代ごろのオバケ。赤マント青マントのバリエーション。学校のトイレの個室に入ると「赤い紙やろか、白い紙やろか」とたずねる声がする。正解は「白」である。間違って「赤」と答えてしまうと、殺される。周囲に飛び散った血しぶきが、紙を赤く染める。高度成長期に入り、トイレの紙の形態が、落とし紙から徐々にロールに変化すると、このオバケは出なくなる。

「赤い手、白い手」

いつの時代のものなのか、はっきりしない。これは、赤マント青マントと、河童の尻子玉抜きの混合。個室に入ると、「赤い手がいいか、白い手がいいか」という声が聞こえる。トイレからにゅー、っと手がのびてきて、お尻をなでるという。そこで生気を抜かれ、殺されるというパターンもある。水洗便所では、手が出るのを想像するのはちょっと無理だから、これも、赤い紙白い紙と同じく、高度成長前までのオバケだろう。

暗い穴の開いているところに、無防備なお尻をさらすのだから、子供でなくても昔の汲み取り式トイレを気味悪く思うのは当然である。臭いし暗いし、不気味なことこの上ない。オバケが出て当然の環境である。

便所から手が出てお尻をなでるパターンは歴史が古く、明治ごろから記録されているらしい。

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