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ハイブリッド生物のパワー

みーんな、融合なのだ

色々な動物の部品が混じったハイブリッド生物系統のオバケは龍や麒麟に限らない。不思議なほど多くの種類がある。人魚もユニコーンもそうだし、スフィンクスもミノタウロスも、鬼も狐つきもそうだ。言ってみれば天使だってそうだ。

新しいものだと、仮面ライダーやバットマンの類もある。もっとも仮面ライダー本郷猛は改造人間だという設定だし、バットマンは特殊に高度な技術力を持っているだけで、衣装はコスプレ、中は普通の人間だからオバケとして論じるわけにはいかないが…。

異なる生物を融合させればエネルギーが増す。これがハイブリッド生物系統のオバケが生まれる論理である。素材となる生物の種類が増えるほど強い力が生まれると考えれば、聖獣とされている龍や麒麟ののごたまぜな姿の由来も納得できるというものではないか。

メキシコへ旅行したとき、この種の木彫りの面や置物を大量に置いている不気味な店に偶然遭遇し、眩暈がしそうになった。

小さい店の天井から床までびっしりと、これでもかこれでもかと融合生物の姿が並んでいる。ありとあらゆる動物の組み合わせが試されている。どれを手に取っても土産物にありがちな媚びを含んだ軽さ、あざとさがない。「本物」の力強さに満ちている。

あとで本を読んだところによれば、なんでも、キリスト教以前のメキシコ文化はこんな風だったのだそうだ。私はすっかり感心した。というのも、これはとても安易で便利な発想なのである。


たとえば蛇女の形をした神様をまつった宗教があったとする。蛇女というのは、普遍的に不気味な取り合わせである。神聖かつ強大なイメージにぴったりだ。

たまたまこの蛇女にふさわしい敵として、悪魔役にマングース男みたいなのを想定する人が出たとする。蛇女は負けてはいられないから、「どうだー!」とばかりにワシと融合し、翼と鋭い爪を手に入れ、蛇ワシ女となったりする。

するとマングース男は「なにをこしゃくな!」と言って対抗策として甲虫と融合し、装甲を手に入れる。すると…という具合に際限なくエスカレートしていくことができる。どんどん悪趣味な形が生まれる。特別の才能や技術はいらない。小学生レベルの悪のりで充分だ。

常識はずれの組み合わせは、機能的パワーアップのためばかりではないはずだ。視覚的に不気味な結果を生むので、決まり切った日常のたいくつから感覚をひっぺがしてくれる。つまり、足場が揺らぐ興奮まで味わうことができるというわけだ。

かくてメキシコにハイブリッド生物が大量生産され、ある日、日本人旅行者が迷い込む店一杯にハイブリッドパワーが満ちあふれることになる。

お疲れの旅行者がこんな風にエグく発展した結果を目にすれば、ゆったり感心などしてはいられない。腹の底に大きな衝撃を受け、気持ちが悪くなるのが関の山だ。

だから、その店で呆然と立ちすくんだ私は、何一つ買えなかったばかりでなく、証拠写真すら撮れず、早々に退散してしまった。今思えばもったいないことをしたものだ。はるばるメキシコに行く機会など滅多にあるものではないし、その店に再度たどり着ける確証だってないのに。

ハイブリッド生物という発想の簡単さ、その後の展開の安易さを考えれば、ハイブリッド生物を作ることを思いついた文化の全てがメキシコのような経過をたどらなかったほうが不思議なのだが、ひょっとして、他の地域では、悪趣味すぎて敬遠されたんだろうか。多分そうなんだろうと思う。人間、いつまでも小学生のままではいられないからなあ…。

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